Inc.:イギリスのブレグジットという大変動の結果、ロンドンの次にはヨーロッパのどの都市がEUにおけるスタートアップの拠点になるのか、多くの人が知りたいと思っています。その有力候補のひとつはパリです。フランスの経済・財務省は先週、「パスポート・タレント」プログラムの拡大を発表しました。これは、外国人労働者を呼び寄せるために2016年に設けられた制度です。今回、いわゆる「French Tech Visa」の一環として、起業家やスタートアップの従業員、エンジェル投資家が、フランスでの事業強化を目的にこのビザを申請できるようになりました。

ビザは4年間有効で、配偶者も対象になります。このビザを入手する方法の1つは、関連する「French Tech Ticket」プログラムに応募することです。もちろん、フランスで事業を立ち上げたいと希望していることが前提です。助言や資金援助を行うパートナーとして41のインキュベーター(起業支援組織)が用意されており、プログラムに選ばれた人々は、それらの1つと12カ月間にわたって共に仕事します。Tech Ticketには、移転費用を賄うための4万5000ユーロ(4万8330ドル)も付いています。

起業家にビザを出している国はフランスだけではありません。カナダも2013年から独自の起業ビザプログラムを始めました。カナダは毎年起業家向けに2750人分のビザを確保しており、1社につき5人までの共同創設者とその家族を受け入れています。一方、アメリカでは、国土安全保障省が2016年、国際起業家に関する規則(the International Entrepreneur Rule)を制定。選ばれた外国人起業家に最長で5年間、アメリカ国内に住んで働く機会を与えています。

フランスのスタートアップ企業のエコシステムは、ここ数カ月で確実に成長しています。最近の「CB Insights」のデータによると、フランスのスタートアップへの投資は、2016年の第3四半期に200%増加しました。ディールフロー(投資案件の引き合い額)は8億5700万ドルに達し、6200万ドル差でイギリスを追っています。同時に、起業が以前よりもフランス社会で受け入れられるようになっているとの指摘もあります。

「フランスの起業家と起業クリエーターは、今や現代世界のヒーローです。これは本物の文化的変革です」と、フランスのアクセル・ルメール経済・財務大臣付デジタル・イノベーション担当大臣は、2017年1月前半のCESの会場で語りました

「フランス政府はこうしたトレンドを熱心に支援しています。(そうした起業家が)未来の経済的価値と職を生み出すと確信しているからだけでなく、若い人たちが、従来(若者を)信用しなかった人々に頼らずに、みずからの未来を築いていける方法でもあるからです」ともルメール大臣は語りました。

急成長するフランスのハイテク業界には、アメリカの人々も注目しています。ルメール大臣によると、Tech Visaプログラムの応募者はアメリカ人が最多で、ロシア、中国、インド、ウクライナからの応募者が続きます。また、つい先週には、Facebookが今春にパリで最初のスタートアップ支援プログラムを開始すると発表しました。この「Startup Garage」と呼ばれるFacebookの目玉プログラムは、データ主導型のスタートアップを6カ月ごとに10社から15社受け入れて、Facebookのエンジニアから学ぶ機会を与えるものです。

とはいえ、極右ポピュリスト運動が移民と起業の未来に与える影響に懸念を示す人も少なくありません。フランスでは今春に大統領選挙が行われ、最近の世論調査では、極右の大統領候補マリーヌ・ルペン氏の優勢が伝えられています。

「ブレグジットや、ドナルド・トランプ氏の米大統領当選という流れを受けて、一部の政党は、国境閉鎖という主張で人々を惹き付けることになるでしょう」と、ルメール大臣は警告しました。「デジタルの世界に生きる私たちが、イノベーションにより国を導き、経済を成長させたいと望むなら、アイデアを持つ人たちが自由に移動できるようにすることが不可欠です」

France Launches New Startup Visa Program (and Americans Love It)|Inc.

Zoë Henry(訳:松田貴美子/ガリレオ)

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